名古屋高等裁判所 昭和31年(う)219号・昭31年(う)216号・昭31年(う)218号・昭31年(う)217号・昭31年(う)214号・昭31年(う)215号 判決
まず所論の被告人朴点岩が吉川紀一などと共謀して木全政一ほか一名を不法に逮捕したとの事実は、同被告人につき原判決の敢えて認定しなかつたところであり、このことは原判示第二の(一)の判文に徴し明らかである。たゞ原判決はその冒頭に同被告人に対する被告事件の罪名を逮捕監禁致傷云々と表示しているのであるけれどもそれは単に同被告人に対する本件起訴状に罪名として逮捕監禁致傷の記載があり、公訴事実として逮捕の事実が併せて起訴せられているところから当該事実につき審判したことを明確にするためにとつた措置に過ぎないのであり、これがため逮捕の事実をも認定したものとなすべきでないこと前記のとおりである。なお所論逮捕の事実は原判示第二の(一)の監禁致傷の事実と包括一罪の関係にあるものとして起訴せられたものであるから、原判決が既に右のとおり監禁致傷の点につき理由中に犯罪事実を認定判示し、これにつき主文において刑の言渡しをしている以上、審判の請求を受けた事件についてはすべて判決があつたものというべきで、逮捕の点につき有罪と認めなかつたからといつて主文において特に無罪の言渡をなすべきでないのは勿論、理由中にその点について何ら判断を示さなくともこれを以て違法であるということはできない。これを要するに、原判決が逮捕の事実を認定したものとなし、その事実誤認を主張する論旨はその前提を欠き理由がない。
次に、原判示第二の(一)の事実に関し原判決が挙示する証拠(但し吉川紀一、李鐘録、崔光男の司法警察員に対する各供述調書はいずれも原審において被告人朴点岩に対する関係において犯罪事実を積極的に認定すべき証拠として証拠調をなされたものとは記録上認める余地がないのでこれを除外する。しかしこれを除外しても以下結論として得られる事実認定に差異を来たさないから、これを証拠に採用した原判決の措置はいまだ判決に影響を及ぼすものとはいえない。)を総合すると、被告人朴点岩は右判示十四日午前二時頃帰宅し、吉川紀一に貸してある三畳間において吉川、その内縁の妻安藤はまゑ、崔光男らが前日から引き続き木全政一、外田昇を逃げないよう取り囲み、何ら確たる根拠がないのに吉川所有の短靴を盗んだに違いない、自白しろと怒号難詰しているのに加わり一緒に朝方まで夜通しかような監禁状態を続け、その間吉川らにおいて衣紋掛や手拳で木全らに殴る蹴るなどの暴行を加えたのは勿論、被告人朴自身も木全を殴る蹴るなど暴行を重ね、これらの暴行によつて木全、外田にそれぞれ傷害を負わせた事実を充分に認定することができ、以上認定の所為につき被告人朴点岩、吉川その他の者ら相互の間に共同犯行の認識のあつたことも右証拠上疑いない。もつとも途中一度山田こと外田を近所の平和園へ行かせた事実のあることは所論のとおりであるけれども、それは別に被告人朴だけの発意に出たという訳のものではなく、且つそのときとても安藤はまゑが同行して行つており当時外田は既に被告人らの所為に怯え逃走の気力を失つていたものであること明らかであるから、右のような事実のあつたことは毫も前叙の認定を妨げる資料となるものではない。その他記録を精査しても該認定が所論のように事実の誤認であるとは認められない。そして然る以上被告人朴点岩が叙上認定にかかる監禁及び暴行傷害の所為について共同正犯の刑責を負うべきことは当然で、仮に所論のように同被告人自身前記外田に対し直接暴行を加えていなくとも、もとよりその責を免れ得るものではない。さればこれと全く同趣旨に出た原判決の事実認定は相当で誤認はない。これを要するに、原判決のこの点に関する事実誤認を主張する所論は原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するに帰し採用できない。論旨は理由がない。
同第二の(二)について
原判示第二の(二)の事実に関する原判決挙示の証拠(但し李鐘録の司法警察員に対する供述調書は、原審において被告人朴点岩に対する関係で犯罪事実を積極的に認定すべき証拠として証拠調をなされたものと記録上認める余地がないのでこれを除外する。しかしこれを除外したところで以下の結論たる事実認定に差異を来たさないから、これを証拠に採用した原判決の措置はいまだ判決に影響を及ぼすものとはいえない。)を総合すると優に被告人朴点岩が他と相互に意思を連絡即ち共謀の上、李千薫を畏怖させて財産上不法の利益を得、且つその際同人に傷害を負わせた右原判示の事実を肯認することができ、記録を精査しても原判決にこの点につき所論のような事実の誤認があるとは認められないので、同被告人がこれにつき共同正犯の責を負うべきこと多言を要しない。所論は単なる弁解に過ぎない。論旨は理由がない。
しかしここで職権を以て調査するに、原判決は判示第二の(一)の事実として、被告人朴点岩が吉川紀一らと共謀の上、自宅三畳の間に木全政一及び外田昇の両名を長時間にわたり監禁し、その間交々右両名に衣紋掛又は素手で殴るなどの暴行を加え、よつて両名の顔面その他に打撲傷を負わせた事実を認定判示した上(この事実認定に誤認のないことは前に控訴趣意第一の(一)に対する判断中に説示したとおりである。)これに対し刑法第二百二十条、第二百四条、第二百二十一条、第六十条を適用処断している。しかし凡そ逮捕又は監禁の罪を犯しよつて人を死傷に致したものとして刑法第二百二十一条を適用し得るがためには、逮捕又は監禁の所為と人の死傷との間にいわゆる因果関係の存在すること、即ち人の死傷が逮捕又は監禁そのもの、少くともその手段たる行為そのものから生じたことを要するものと解すべきこと、同条の文言に照らし明らかであるから、人を監禁しその機会にこれに暴行を加え、よつて傷害を負わせたというに止まり、監禁と傷害との間に因果関係のないことの明らかな前記原判示のような場合には最早やこれに対し同条を適用処断すべき余地のないもので、かかる場合には寧ろその監禁の点につき刑法第二百二十条を、傷害の点につき同法第二百四条を適用した上、右両者を同法第四十五条前段の併合罪として処断するのが相当であるといわなければならない。されば前記判示事実を認定しながら事ここに出ず、これに刑法第二百二十一条を適用した原判決は法令の適用を誤まつたもので、且つその誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決中被告人朴点岩に関する部分はこの点において破棄を免れない。
(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)